1月16日、第158回芥川賞が発表され、枚方市出身の石井遊佳さん(54歳)の『百年泥』(新潮社)が選ばれました。小学校までを枚方市で過ごした石井さんは東京大学大学院で仏教を学び、洋菓子職人、旅館の仲居など様々の職業を経験後、現在はサンスクリット語研究者の夫と共に小説の舞台である南インド・チェンナイに移り住み、現地のIT企業で従業員を相手に日本語教師を務めています。
大学時代から始めた小説の執筆活動が見事結実したこの受賞作は、彼女のインドでの経験などを基に書かれたデビュー作で、昨年「第49回新潮新人賞」を受賞。「子どもを早く働き手にするために年齢詐称も当たり前」のインド社会に驚きつつも忙しい仕事の合間にメモを取り、時間が空いた時に小説としてまとめました。インド南部の都市で日本語教師をしている主人公が百年に一度といわれる洪水に遭遇。アダイヤール川の氾濫の後に残された泥の中から現れる色々な物や人が主人公に語りかけ、時には主人公の記憶を呼び覚ますこの作品は淡々とした表現方法で、荒唐無稽なことも真実かと思わせる不思議さに満ちています。
今回、石井さんは芥川賞贈呈式のために帰国。3月2日には枚方市を訪れ、伏見隆市長と面談しました。久しぶりの母校の枚方小学校は断片的な記憶しかなかったとのことですが、「母と一緒に淀川の堤防を歩いたことはよく覚えていて、その時母と話し心に残ったエピソードは作品に取り入れた」と。
『百年泥』で所々に浮かび上がる人情味、心に響く言葉。彼女の心にある風景の原点が垣間見られました。
石井さんはしばらく日本に滞在し、次作に取り組みます。枚方ゆかりの人が生みだした輝かしい文学。彼女のあふれ出る才能がさらに花開いていくことが期待されます。